猫色ケミストリー
喜多 喜久著『猫色ケミストリー』読了
勝って積ん読をしてあった文庫を読了。私にとっては非常にいいミステリーに思えたが、一般受けはどうか。
著者の他の作品と同様に大学院の化学系の院生が主人公。雷の影響で、男の院生と女の院生、猫の意識が入れ替わる。男の意識が女子に、そして女の意識は猫に。この意識が入れ替わるという展開はある意味使い古されたことだが、3つで玉突きはなかなかないかな。
女性の院生は化学の反応系の修士段階で卒業間近。触媒を使って不斉合成が効率良くできる反応を研究している。ちなみに不斉合成って一般的にはわからないよね。自分は大学で化学系で有機化学を専攻していたので知識として知っているけど、一般の人は知らないだろうな。化学物質の中にはその構造によって、同じ組成であっても構造が鏡像体となるものがあって、一般にはD体が自然界に多くあり、その反対のL体は合成反応で作ってやらないといけない。同じ組成であっても、D体とL体では反応が違うことがある。構造に違いがあるのだから当たり前だけど、その構造をうまく利用して効率よく合成できる触媒を探すのはなかなか難しい。ここまで言葉で説明したけど、わからないだろうな。
合成反応自体はミステリーと関わらないが、誰かが主人公の試験反応を妨害していることがわかり、その犯人を探すと以外なところにいた。これ自体は大きな問題ではないが、卒業を遅らせたい一心でやっていたらしい。
また、研究室で行われる合成反応で覚せい剤と同類の試薬を合成しているもう一人の犯人がいて、その犯人がこの主人公の入れ替わりの戻りの試薬を作っていた。
で、意識の入れ替わりとミステリーの犯人は直接関係していないのだ。うーん、意識の入れ替わりの状況を作って、ミステリーの謎解きに味付けしているという感じかな。
総じて、このお話は自分としては面白かった。30年前に大学は卒業したが、その当時は毎日大学の研究室に入り浸って、反応をしては後処理をして、試験してということの繰り返しをしていた。その頃のことが思い出されて、非常に面白かった。ただ、一般の人はどうかな。こういったミステリーを通じて、科学の面白さに興味を持ってくれたらいいなとは思っているが。
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